金髪女性

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店の終い際に、リックを背負った、うら若い金髪の女性が微笑んで立っていた。クレジットカードを出して、これは使えるかと聞いているようだ。見たこともないようなカードだけど大概カード会社同士で提携しているので大丈夫だろう。
「OK」と答える。
津軽塗の丸重箱が欲しいらしい。まだ若い外人なのに大したものだと思いながらも、英文の栞を見せながら包装する。カードリーダーにカードを差し込むが上手くいかない。いつもと違う表示が出る。3回目でようやく読み取れた。ほっとして、笑顔で見合わせると、
「ダイジョウブ」と言われた。
大丈夫!?日本語分かるんじゃない。津軽塗を購入する位の外人は大概日本語が流暢なものだ。最初から言ってよ。

(画像は英文の栞)

草魂

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歩道と店の敷地のコンクリートの僅か1センチ程の隙間から雑草が生えている。雑草と言ってしまうには失礼なほど、小振りながらちゃんと葉と茎が揃っている。こんな狭いところに偉いものだ。
そういえば近鉄バファローズに鈴木啓示というピッチャーがいた。その往年の名投手の座右の銘が「草魂」だった。踏まれても踏まれても立ち上がる「雑草の魂」という意味だそうで、鈴木啓示の造語だという。直球勝負にこだわった豪快なイメージであまり頭脳派の印象はなかったが、やはり一芸に秀でた者は万芸に通ずということか。今気が付いたがすごい名前だったんだ。
それにしてもこの雑草は入口の正面すぎる。
抜くか。

手前味噌

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田中屋は塗物屋のくせに味噌もあつかっているのだ。知らなかったでしょう。弘前市一番町の店内に『津軽物産舎』という自然食品と郷土のお菓子のコーナーがある。この味噌は「海の精株式会社」という知る人ぞ知る自然海塩のメーカーが作っている。専売公社のようなイオン交換方式ではなく伊豆大島の海水から伝統的な製法で作っている。この製法で作られた塩には微量のミネラル分が含まれている。この自然海塩を使って作られた味噌は酵母菌や乳酸菌や酵素が生きている。しかも農薬や化学肥料を使わずに栽培した国内産の米を使用していて、食品添加物を使わない天然醸造の味噌なのだ。
能書きはさておいて、お味噌汁にすると一番よく分かる。旨い!キュウリにそのまま付けて食べても旨い。(実は味醂で少し溶かして付けるのがお勧めだが)
手前味噌な話になってしまったが、一度お試しあれ。

(1㎏ 1,469円)

科布の暖簾

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科布(しなふ)の暖簾を仕立て直した。科布はシナノキ等の樹皮の繊維をよった糸を使って織ったもので、縄文時代から織られてきたと言われている。簡素で力強い自然さが魅力である。
この暖簾は20年以上前だろうか新潟県岩船郡山北町の保存会を通して手に入れたもので、日にさらされて最初の頃の茶色からは白っぽくなったが、これはこれでいいものである。以前にグラフィック社発行の『和の色手帖』に紹介されたことがあった。いいものは時を経ても、いや時を経るほどに味わいが増すという。
たまに何の布ですかと聞かれることがある。まれに「科布でしょう!」と言われることがある。時を経たものは人と人とをつなぐとまでは行かなくても話の接ぎ穂くらいにはなるものらしい。

書家・野呂恙二

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40年以上前の看板なので読めるだろうか。「田中屋漆器製作部」と書いてある。揮毫したのは叔母の夫にあたる書家の故野呂恙二である。中学校の社会科教員として長年奉職し、弘前市立南中学校の校長も務めたのでご存知の方もいるかもしれない。
1971年に弘前市一番町の店の奥二階にあった工房を郊外の石渡に移転したときに掲げたもの。時は移り津軽塗の製作過程を公開するために2001年『田中屋工房津軽塗資料館』を開設し、資料として展示した。その脇に「野呂恙二 書」と小さくだが明示した。このことを叔母に話したことは無かった。
叔母が珍しく田中屋に立ち寄ったことがあった。さすがに亡夫の筆跡は直ぐに分かるのだろう、立ち止まり小さなキャプションを見つける。うっすらと涙ぐむのが分かった。お礼を言われた。その叔母ももういない。
それにしてもいい字だ。

漆桶

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「四百拾匁」と筆で書いてある。410匁つまり約1,5㎏の漆の入った桶だ。右の行は「羽合衣」だろうか、判読不明である。何時ごろの物だろう。かなり古そうに思われる。戦前の物だろうか。中は漆が付いて黒くなっている。
そういえば「打破漆桶底」という禅語があった。凡夫は皆こんな漆桶を被って生きているようなものなのだろうか。煩悩にとらわれ無明の闇の中をさ迷っているのだろうか。道元禅師はそれを打ち破れと叱咤している。破れば明るい世界が開けてくるのだろうか。悟りが開かれるのだろうか。しかしそれにしてもこの漆桶の底板はかなり厚い。

『田中屋工房津軽塗資料館』に展示中

笹竹

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『津軽塗資料館』にいたら、年配の女性が入ってきて、ちょっとお尋ねしますという。
資料館の前に植えている笹竹は何の種類かと聞かれた。全く考えたこともないことを聞かれるものだ。聞いてみると自宅の庭に笹竹を植えたいと思っていたところ、車で通りかかったらお宅の笹が眼に入った。どこに行ったら手に入るのでしょうと言う。植木屋さんに行くしかないのではと言うしかなく、お役に立てなくて申し訳ありませんと答えるしかなかった。
この資料館の前面に笹竹を植えたのは美術家・村上善男先生のデザインで、開館した当初、茶道の先生にお店のお隣に和風の建物を建てたのですねと言われたことを思い出した。なるほど笹一つで東洋的な雰囲気を創り出すのだと得心した。さらに風に揺れる笹は暖簾のように人を招き寄せるものらしい。

バフ

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唐塗の重箱の蓋を1枚持って来られたお客様がいた。スポンジの固い方でこすってしまって傷が付いたという。直りますかと心配顔である。見るとまだ新しくいい塗である。傷はどこだろう?眼が悪くなったのかなと思ったら、線状の傷というよりも直径3cm位の「くもり」である。この程度ならだ大丈夫でしょうと、隣接する工房に持って行った。工房長が早速にバフをかけてくれた。バフというのは牛や鹿の揉み皮で研磨材として使われる物である。あっという間に「くもり」がとれる。これじゃお金の取りようがないですねということでお客様に渡した。大層喜んでいただいた。うちで出かした品物ではないが、物が良く傷も浅かったのであっという間の仕事であった。あっという間過ぎてお代は頂戴できなかったけれど。

ガラス蓋の小箱

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ガラスはその透明感と落とすと割れるというはかなさのせいか、涼感ただよう夏の器である。漆器は熱の伝導率の低い、そして柔らかな感触が美点で、熱い汁物を飲むのに適した冬の器である。だから漆とガラスは意外な組み合わせかもしれないが、案外と似合うと思っている。

寿々喜塗(すすきぬり)という小店のオリジナルでありトレードマークなのだが、黒のツヤのあるススキの模様と地が黒のツヤ消しなのだがお分かりなるだろうか。基本的には紋紗塗の技法を使っている。紋紗塗は侍の刀の鞘に使われた非常に丈夫な塗である。
(12×12×8cm 23,760円)

納期2カ月以上

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津軽塗の下地の工程に「布着せ」というのがある。綿布を糊漆で貼るのだが『資料館』で見学の方に解説して驚かれることがある。仕上がるまで2カ月以上かかるというと呆れられることがある。30年以上この商売をしているとついつい当たり前になってしまうが、やっぱり世間的には珍しいことであろう。
結婚式の1カ月前に引き出物を選びに来たお客様がいた。ご希望の品物が数がそろわず、新たに作るとなると2カ月以上かかると言われて残念がっていたが、こちらもそれに負けず劣らず残念であった。引き出物とかお土産はどうしても一番後になってしまう。2カ月も3カ月も前から手配する人は中々いない。かと言って48工程の内のどれかを省くことは許されないし、すべきことではない。
資料館や店頭で伝え続けるしかないのだろう。

(画像は座卓の脚なのです)